今回コミュニティースターとしてご紹介させていただくのは、高齢者がより良く生活できるように支援されている岡田由佳さんです。岡田さんは現在オンタリオ州スカボロー市にあるモミジ・ヘルスケア協会(以下MOMIJI)でケア部長として働いています。MOMIJIは日系の高齢者の介護付き住宅です。高齢者がより良い生活を送り、クオリティーオブライフを向上させられるよう、日々努めていらっしゃいます。また、ジャムズネットカナダに所属して認知症のプロジェクトに関わり、「ディメンシア・フレンドリー・コミュニティ」を作ろうと努力されています。今回は、多忙な岡田さんに貴重なお時間をいただき、看護師の資格を取得しようと思ったきっかけやPSW (Personal Support Worker、以下PSW) 時代の忘れられない体験、そして認知症プロジェクトについてや今後の目標についてお話を伺いました。

 岡田さんは、1994年頃からMOMIJIでPSWとして働いていました。その頃はまだ入居者の方々の年齢も若かったので、政府はHealth Careの必要はないとし、補助金はPSWに対してのみでした。働いているうちに、今の入居者の将来が心配になりました。「入居者の方々は確実に高齢者になる。そして、文化や生活形態が理解できて、シニアを繋げることができる、日本語が通じる看護師が絶対に必要になる」。そこで岡田さんは、自分が正看護師の資格を取ることを決意しました。当時、正看護師の資格を取得するには、カレッジに3年間通わなければなりませんでした。入学試験もありましたが、見事合格。まだ小さいお子さんが二人いましたが、旦那様の協力も得てカレッジに通い始めました。学校が始まってからも、MOMIJIでPSWとしての仕事も続けていました。正看護師になる勉強はとても大変で、ストレスで髪も白くなっていったそうです。しかし、MOMIJIには正看護婦が必要だという熱い思いを忘れずに毎日頑張り、晴れて正看護婦の免許を取得しました。岡田さんが見据えた通り、現在MOMIJIの入居者は後期高齢者がほとんどになっています。あの時岡田さんが決意して正看護婦の資格を取得していなかったら今のMOMIJIはなかったでしょう。

「心って通じるんだ」- PSW時代の体験 ―

 岡田さんはもともと、ワーキングホリデーでトロントに来ていました。PSWになろうと思ったきっかけは、仕事を探している時にPSW資格取得のコースのちらしをみつけ、やってみようと思ったことでした。「好きだったから」と語る岡田さんは、若いころから人を助けるお仕事が好きだったのです。このコースの実習で、岡田さんは一生忘れられない体験をしました。百歳のおばあさんとの出会いです。目が見えず、耳も遠くて、聞こえていないといわれていて、意思疎通が難しい方でした。ほかのPSWの方々は敬遠ぎみの様子でした。岡田さんはこのおばあさんの担当になりましたが、食事の際には教科書通り一口ひと口、何を食べさせているかを、耳元で教えてあげながら、優しく食べさせてあげました。周りからは「そんなことをしていたら、日が暮れるわよ」と言われましたが、岡田さんは気にせず、そのおばあさんに変わらず接しました。すると、しゃべることもできないといわれていたそのおばあさんが、「Thank you」と言ってくれたのです。30年前の話ですが、今でも鮮明に覚えているそうです。「意思疎通が難しくても心って通じるんだ!」。岡田さんはそう確信したそうです。そして、この「Thank you」が、高齢者サポートにとどまり続ける源になっているそうです。
 また、岡田さんがずっとモミジで働きたいと思っているもう一つの理由は、ここで出会った一人一人の高齢者の方の、それぞれの人生の証人になりたいという思いがあるためです。つまり、「〇〇という方がカナダで頑張って、生きて人生を全うされた」ということの証人です。そして、「長い人生の幕を閉じられる時に立ち合い、心から『お疲れさまでした』と申し上げるのが自分に課された使命」だと岡田さんは語ります。だから、岡田さんはモミジで関わってきた高齢者の方々を一人も忘れないようにしているそうです。

認知症 ― ディメンシア・フレンドリー・コミュニティを目指して ー

 現在、岡田さんはJAMSNETの高齢者支援ネットワークのメンバーおよび講師で、認知症についてのプロジェクトに関わっています。
 発症を防いだり遅らせたりるには生活習慣が大事ですが、一番大事なことは「頭の運動」なのだそうです。「頭の運動」とは、パズルや問題を解くことではなく人との関わりのことで、人と関わることで行われる会話のキャッチボール相手の感情の読み取りがとても脳に良い刺激になるそうです。もちろん、それに加えて運動やバランスの良い食事も大切です。
 MOMIJIでは、高齢者がクオリティーオブライフを向上させることとアクティブに生きることを考え、日々アクティビティを取り入れています。先日、元横綱白鵬氏がMOMIJIを訪問しました。高齢者の皆様は若いころに戻ったように顔が明るくなり、とても楽しそうでした。こうした感情が認知症の発症予防にはとても良いそうです。

ネットワーク - 今後の目標 ―

 岡田さんの今後の目標は、「日系コミュニティーをサポートするネットワークの形成」です。現在トロントGTAには約1万8千人の日本人が住んでいます。戦前に移民したご家族の2世や3世の方々にはとても強いコミュニティーネットワークが形成されているそうですが、岡田さんが心配されているのは、若い時代に自分でより良い生活を求めて移民してきた方々。どちらかというと、日本の生活から離れたくて来た方々なので、カナダに来ても日系コミュニティーとあまり関わりを持たないそうです。その方々が高齢になった時には、全くサポートがない状態で、英語も忘れていくので、やはり日系のサポートが必要になっていくそうです。現にそうような方々が増えてきていて、MOMIJIとJapanese Social Services のサポートだけでは追いつかないそうです。高齢になってからでは遅いので、40代か50代になればサポート探しやネットワークが必要です。岡田さんは、その方々が将来必要になるであろうサポートを得られるネットワークを築こうと、試行錯誤をしています。

 最後になりますが、お忙しい中貴重なお時間を割いてお話を聞かせてくださった岡田由佳さんに感謝いたします。お話を伺わせていただいて、岡田さんがどれだけ高齢者の方々を思い、心からケアをしているかが伝わってきました。「好きだからできること」だと岡田さんは語りましたが、一人一人を尊敬し、真剣に関われるのは、好きでなくてはできないことだと思います。GANBAREも、「コミュニティーの繋がりを大切に」をモットーに活動しております。高齢者になった時に日系サポートが得られ、誰もが心地よく暮らせるコミュニティーを築きあげていきたいですね。