
3月9日、トロントでGANBAREとYOJIさんによる心温まるコミュニティイベントが開催されました。メインイベントは、サヘル・ローズ監督による映画『花束』の上映会。会場には予想を上回る多くの方々にお越しいただき、満席の客席がその期待の高さを物語っていました。
上映前後には、新移住者の皆さんをサポートする情報ブースや、多彩なベンダーの方々による出店ブースへと来場者が訪れ、会場は終始にぎやかであたたかな雰囲気に包まれていました。
上映後には、監督ご本人や出演者から寄せられた特別メッセージを上映。そして、観客の皆様には、監督への“思い”を形にして届ける折り紙の花を折っていただきました。こうして集まった折り紙の花々は、3月30日に福岡で行われた『花束』上映会の場で、サヘル・ローズ監督の手に無事届けられました。
ご来場の皆様からは、「映画の内容がとても興味深かった」「久しぶりに折り紙を楽しめた」「映画だけでなく、ブースも充実していて楽しかった」といった嬉しい声がたくさん寄せられました。心より感謝申し上げます。
今回の上映会が実現した背景には、一緒に企画したYOJIさんと監督に対する応援の想いを共有したことがきっかけとしてありました。YOJIさんとは、児童養護施設への支援活動や貧困地域への寄付など、監督が運営されている社会貢献活動を応援するグループを通じて知り合いました。そのYOJIさんが、3月30日に福岡で上映会と絵の展覧会を開催されることをと伺い、「ここトロントでも監督の想いを届けたい」と、GANBAREとして初のイベント企画に挑戦する運びとなりました。
初めての主催にもかかわらず、サヘル監督をはじめとする多くの方々のご理解とご協力、そして日頃から支えてくださる皆様の温かな応援に支えられ、こうして無事に開催することができました。本当にありがとうございました。
共催のYOJIさんのご紹介、そして上映後に皆様から寄せられたご質問にサヘル監督が答えてくださったインタビューを掲載しています。どうぞお楽しみください。




Yoji Osato
個人として社会課題に細々と関わりながらボランティアなどを行っています。今回の上映会開催のきっかけは4年前に遡ります。偶然参加した講演会で「社会的養護」の現状を知り、それまで無縁だった世界に触れたことから、活動を始めました。時が経つにつれ、自分が知るきっかけを得たように、次は誰かにその「きっかけ」を届けたいと思うようになり、上映会を企画しました。不定期ですが想いをnoteに寄せていますので、よろしければそちらもご覧ください。
https://note.com/yojiosato_swn

Q1:虐待されている子どもを救うために児相の方々が日々努力されていますが、その方々の心労が原因で退職されるケースも多いそうです。より多くの子どもを救うには、児相に関わる方々の環境改善が必要だと思います。どうすればよいとお考えですか?
A:
現場の方々の努力には、私自身、施設や社会的養護に関わる中で何度も心を打たれています。子どもを守るということは、時に自分の感情や時間のすべてを費やすこと。制度の限界や、周囲の無理解のなかで葛藤されている職員の方は少なくありません。心を守る人の心が壊れてしまわないように、十分な人員配置、心理的サポート、社会からの理解と敬意が欠かせません。まずは社会全体が「誰かの子ではなく、社会の子」として子どもを見つめる意識が広がること。それが支える側の環境改善の第一歩になると思います。
Q2:なぜこの映画は白黒(モノクロ)なのですか?
A:
「モノクロにしたかったというよりも、映像に色をつけたくなかった」これが私の答えです。色がついてしまうと、それが観る人にとって「正解のイメージ」になってしまう。この映画は、8人の当事者たちが語る「人生の断片」。
見る人それぞれの心で感じ、考えてほしい。そのために、あえて色をなくし、彼らの「インナーチャイルド」と出会ってもらえるようにしました。
Q3:なぜこのようなスタイルの映画にしたのですか?もっとわかりやすく作ることもできたのでは?
A:
これは「映画」であると同時に、「彼らの人生そのもの」でもあります。言葉にしづらい感情、過去、痛みを、ひとつの「物語」に押し込めたくなかった。彼らが自分自身を演じ、アドリブで語ることで生まれた「真実の揺らぎ」こそが、この作品の核です。わかりやすさよりも、「わかろうとすること」を大切にしたかった。それがこのスタイルの理由です。
Q4:この映画を作ろうと思ったきっかけは?児童養護施設の子どもたちとの出会いは?
A:
私自身がイラン・イラク戦争の孤児でした。育ててくれた母のもとで日本に来てからも、「なぜ私は生まれたのか」と問い続けてきました。俳優として活動する中で、
「日本にも親と暮らせずに苦しんでいる子どもたちがいる」と知り、施設を訪ねるようになりました。出会った子どもたちの目には、かつての自分が重なって見えたんです。映画を作ろうと思ったのは、「誰かに愛されたい」と願う彼らの声に、世界中の誰かが気づいてくれるように、そう願ったからです。
Q5:児童養護施設で育つより、里親のもとで育つ方が幸せですか?海外では支援が多いと聞きますが…
A:
「施設が悪くて、里親が良い」という単純な二元論では語れないと私は思います。大切なのは「関係性の質」です。血のつながりがあっても傷つけ合うこともあれば、血が繋がっていなくても深く愛し合うこともある。海外では制度上の支援が進んでいるところもありますが、支援があっても虐待が起きる現実もあります。つまり、制度の整備と共に「心で育てる」意識が社会全体に必要なのだと思います。
Q6:幼児期に里親に引き取られることが重要だと思いますが、日本ではまだ難しいようです。どうすれば変えられるのでしょうか?
A:
まず、社会の理解と意識を変えることが必要ではないでしょうか。
子どもにとって安定した家庭環境が早期に整えることは非常に重要だと思います。しかし、日本では「血縁」に重きを置く文化が根強く、里親制度への偏見も残っています。情報を届けること、制度をもっと柔軟にすること、そして何より「子どもの最善の利益とは何か?」を社会全体が考えることが、変化の第一歩になるではないでしょうか。個人的な考えではありますが…。
Q7:施設は何歳までいられますか?退所後は住める場所がありますか?応援団体は?
A:
施設には原則18歳(進学等で延長あり)までいられます。しかし退所後、すぐに自立を迫られるケースも多く、住まいや仕事、人とのつながりに不安を抱える子が多いです。全国には退所者を支援するNPOや「自立援助ホーム」も存在しますが、数や支援の質にばらつきがあります。本当に必要なのは、「出た後も安心して助けを求められる社会」その土壌づくりだと私は感じています。
Q8:施設で暮らした方々に直接会ったことがないのですが、彼らが幸せに暮らしていくために一番大きな力になったことは何だと思いますか?
A:
それは「信じてくれる誰かの存在」です。「あなたなら大丈夫だよ」と言ってくれる大人がひとりでもいれば、人は生きていける。施設で育った8人のキャストの姿を見ていても、支えてくれる存在がいた人は、どこか心に希望の光を宿していました。だからこそ、私たち一人ひとりが「あなたはひとりじゃないよ」と伝えられる存在になれたら、それだけで未来は変わると思っています。









All photos: ©2025 Katsuhiro Kojima


ご来場いただいた皆様に折っていただいた折り紙で作った花束は、3月30日に福岡で開催された「花束」上映会の際に、無事にサヘル監督にお届けすることができました。ご協力いただいた皆様に、心より感謝申し上げます。
ありがとうございました。
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GANBARE春号サヘル・ローズ監督インタビュー
⇒ https://ganbare.ca/sahelrosa/
映画「花束」公式ホームページ
⇒ https://hanataba-project.com/