6月8日から6月22日に、日本文化会館(JCCC)にてTORONTO JAPANESE FILM FESTIVAL(TJFF)が開催されました。今回は日本からのゲストとして、〝さかなのこ〟の監督と脚本を努めている沖田修一監督が参加されました。沖田修一監督へインタビューの機会を頂きましたので、さかなのこの魅力、監督ご自身とこの作品の共通点などさまざまなお話しを聞かせて頂きました!

 原作はさかなクンの「さかなクンの一魚一会〜まいに ち夢中な人生!〜」。 お魚が大好きな小学生・ミー坊は、寝ても覚めてもお魚のことばかり。ほかの子どもと少し違うことを心配する父 親とは対照的に、信じて応援し続ける母親に背中を押さ れながらミー坊は、のびのびと大きく育った。高校生にな っても相変わらずお魚に夢中のミー坊だが、卒業後はお魚の仕事をしたくてもなかなかうまくいかずに、悩んでい た…。そんなときもお魚への「好き」を貫き続けるミー 坊は、たくさんの出会いとやさしさに導かれ、ミー坊だけの道へと飛び込んでゆく。

Q:さかなクンを映画の題材として起用したきっかけをお聞かせ頂けますか?

A:プロデューサーの方がさかなクンの関係者の方と仲良しで、「さかなクンの映画の企画があるんだけど」という話で。僕も昔からさかなクンは大好きだったし、どんな人なんだろうと。そもそもテレビ中と外では違うんだろうかとすごく興味があったし、さかなクンの映画は面白そうだなと思って。自分から手を挙げて、「やりたい! やりたい!」という感じでしたね。

―そうなんですね。実際にさかなクンとお会いしてみてどうでしたか?

いやもう、テレビで見たそのまんまでしたね。映画撮影が終わった後にも、さかなクンからお魚が届いたりしてします。船に乗って、網で山のようにたくさん獲るのだそうです(笑)

Q:世界的に6月はプライド月間といい、LGBTQ+という月でもあります。今回映画のはじめに、〝男か女かはどっちでもいい〟というメッセージがありました。ジェンダーの垣根を越え、主人公に女優ののんさんを起用するに至った経緯を教えてください。

A:さかなクンって、やっぱり日本だとあまりにも有名だったりして、男の人があの調子でお芝居すると、どうしてもモノマネにしかならなくて。そのままやるんだったら、テレビの再現ドラマの番組で充分だと思うんです。映画にする意味を考えたときに、さかなクンの人生をモデルにして、何かを猛烈に好きになった人の映画にしたいと思いました。その時に、さかなクンの性別に合わせる必要があるのかと思って。どうせ演じるんだったら、実際のさかなクンからも離れられるし、映画ならではの面白さがあるのではないかと思ったし、さかなクン自体がそんなに性別に強い意味があるような気がしなくて。のんさんを起用したのは、のんさん自身も絵を描いたり、音楽をやっていたりとか、精神的な意味でちょっとさかなクンと似てるなって思って。のんさんとさかなクンってぴったりだなって。ほかにキャストが考えられなくなるくらい、のんさんに演じてほしいと思うようになりました。

Q:ミー坊(主人公)の周りには見守り味方でいてくれる母の存在があり、ミー坊に関わる友人たちは温かく、見ている側もそんな姿にほっこりする場面が多くありました。沖田監督にもそのような身近な人や、映画監督になるにあたって支えになった人物はいらっしゃいましたか?

A:うちの家族は、こういう職業に就くことをダメだとは言わなかったし、観たものを「面白いよ」って言ってくれる人も居て。じゃあ頑張ってつくろうって思ったりもします。「自分はこの仕事に向いているのだろうか」とかと考えてしまう時もあるので、そういう存在がやっぱり支えになってますね。

―さかなクンのように、昔から映画が好き、という感じだったのでしょうか?

いやもう、さかなクンと比べたら全く勝てる気はしないんですけど(笑)。でも、好きですね。「映画好きですか?」という質問をされると、遠慮や照れはあるじゃないですか、「いや…まあまあまあ…」みたいに。でもさかなクンって、「魚好きですか?」って聞いたら、「もちろんでギョざいます!」って絶対言うじゃないですか(笑)。そのことを、ちゃんとストレートに言うのってなかなかできないなって思うんです。

―そうですよね。そんな部分が周りから見ると「眩しいな」「羨ましいな」と感じますよね。

そうですよね。なんか羨ましいなって感じますよね。

Q:映画でのミー坊のお父さんのタコの締め方や、ミー坊が学校で魚の剥製を机から出したり一緒に寝たりといったシーン。特に私は、勉強しているヒヨが眠気醒ましに手にコンパスを刺すシーンと、その後にしっかり包帯を巻いている描写がとても好きなんですよね(笑)。そんなクスッと笑えるシーンが散りばめられているのがとても好きです。これは沖田監督にもなにかこだわりがあったりするのでしょうか?

A:コンパスのシーンが好きって言う人初めて会いました(笑)。なんですかね、コメディの部分で沢山遊んでしまうんですよね。

―不良同士の抗争も殺伐としていなくて、戯れあってるような可愛い光景だったり…(笑)。

そう、なんだか平和にしか思えない光景。自分の学校名名乗ったり(笑)。私のお気に入りはそうですね、イカのシーンですね。さかなクンの学生当時は、あんなヤンキーは居ないですからね(笑)。

Q:映画内でのさかなクンご本人の出演の仕方もとても気になりました。エンドロールでは音楽のバスクラリネットにさかなクンの名前がありましたね。あれは監督からのご依頼だったのですか?

A:原作のぎょぎょおじさんは、さかなクンがやれないって言ったらほかに誰ができるんだろうというくらいに思い入れていたので、さかなクンがやってくれたので良かったって思ってます。あと、さかなクンが自分で演奏するのが結構好きだっていうことは僕も知ってたんですけど、サックスとかバスクラリネットみたいな低い音が好きなんですって。それを僕にすごく言ってくるので、音楽担当のパスカルズさんに「バスクラリネット吹ける人居ます?」って聞いたら、「うちにはいないんだけど」って言うから、「じゃあもうさかなクンに吹いてもらいますか」ってなって(笑)。ご本人は「すごく嬉しい〜!」って喜んで楽しんでくれて、良かったです。

―さかなクン、本当に多才ですね。

多才ですよね。さかなクンはもちろん絵も描けるから、劇中の絵も多少描いてもらいたかったんですけど。それはさすがに描けないのでスタッフさんがさかなクンが子どもの頃に描いた絵とか昔の絵などをもとに描いたりしました。結構さかなクンの絵も、昔と今ではタッチも変わってきていたりして、それを全部真似しましたね。

Q:沖田監督にとっての〝好きなこと〟はなんでしょうか?

A:映画、と言いたいところですけど、さかなクンを前にしてそんなこと言えないとも思ってしまいますが…。でも、そうですね。ずっとやってきてるので。映画は好きです。

―ちなみに、沖田監督の1番好きな映画はなんですか…?

いっぱいありますけど、高校生の時に〝家族ゲーム〟という映画を観て、すごくそれが面白くて。こういう映画をつくりたいなと思って。

―学生時代から映画制作などはされていたのですか?

僕は学生の頃は友だちとビデオカメラで遊んでいたんですよ。みんなで遊びでやってたのが、ただただ面白くて。それが、「こうしたらこうなるんだ」とか「じゃあ今度は編集してみようか」とかか「音楽入れてみようか」とか。ちょっとずつやることを広げていったら、「脚本書いてみようかな」とか、段々映画の形に近づいていって。それが映画をつくる始まりだったんで、あまり仕事というよりかは、ビデオ遊びから始まった感じですね。

―それも〝好きなこと〟だからの繋がりですよね。

そうですね。面白かったですよ。今回台本を書いてる〝前田くん〟も、その時の中学の同級生なんですよ。

―中学生からの繋がりはすごいですね。それこそ、〝さかなのこ〟の世界のお話みたいで。

ハハハ(笑)。繋がりで言うと、今回は鈴木拓さんに先生の役を演じて頂いたんですが、さかなクンとドランクドラゴンの方は同級生なんですよ。鈴木拓さんが演じた役は〝鈴木先生〟っていう、実際にさかなクンと鈴木拓さんが学んだ担任の先生だったみたいで。その役を鈴木拓さんが演じてるという繋がりは面白かったですね。

Q:最後に〝さかなのこ〟に対する思い、これから映画を見る方へのメッセージを頂ければと思います。

A:昔は何か人と違ったりすると、それが大きな問題だったするところがあったように思います。今はそういった違う部分を認めていこうみたいな風潮がありますよね。さかなクン自身が思いがけず、時代を先駆けているような部分もあったりします。そういう意味で、この映画自体は、さかなクンの映画ではあるんですけど、視野を広げられる映画になると良いなと思ってます。そういう「自由な魂」みたいな部分を感じて頂けたらうれしく思います。

―本日は貴重なお話、ありがとうございました!

取材ライター:Yui   

沖田監督からのメッセージもお楽しみください!